フエ

ヴェトナムのほぼ中心に位置するフエ Huế は、ヴェトナム最後の王朝阮(グエン)朝の治世(1802–1945年)に出現した旧都であり、都城を擁する世界最後の都市である。宮城を中央に据えたシンメトリックな構成とそれを分割する直交グリッド状の街路という、中国由来の伝統的コスモロジーに根ざした都市であるが、当座の完成を見てからの200年間にフランスによる植民地化、ヴェトナム戦争、そして近年の経済自由化による建設ラッシュなど、外部から様々な介入を被ってきた。フエにはこうした来歴がもたらす凝縮された歴史が色濃く刻まれている。本研究は、このフエの都市空間のダイナミズムと、それを支える都市建築の理念に関心をもって始められた。

1993年にフエの王朝建築がユネスコ世界遺産に登録されたこともあり、研究に着手した2007年の時点ですでに豊富な蓄積はあったものの、フエの都市空間を開かれたものとして包括的に捉える視座は未だ欠けているといわざるを得なかった。このため我々は都城の市街地部を現地調査の対象と定め、都城内195の街区のうち代表的なものの悉皆的な記録や聞き取り、文献収集などを行うこととした。またこれと並行して建築の調査をすすめ、これまでに30ほどの伝統的な住居について実測調査を実施した。研究は未だ途上であるものの、街区と住居の変容を横断的に語る視点の提示という一定の成果は得られたものと考え、すでに学位論文や国際シンポジウムの場でこれを発表している。現在は、周辺に点在する複数の集落をも調査対象に加え、また新たに都城の建造以前の時代や都城の区域の外部を視野に入れることで、フエという都市の成立の基本的な条件に光を当てることが検討されている。これらを含めた最終的な成果物は書籍としての刊行を期している。

フエの都市史・建築史は早稲田大学中川武研究室が継続的な研究対象としており、我々は研究の開始当初より調査のマネージメント、資料収集などの面で同研究室に多くを負っている。現地ではフエ遺跡保存センター(Hue Monuments Conservation Center)に所属する多数の研究者や役員の支援を受けた。また本プロジェクトは平成18–20年度科学研究費補助金基盤研究A(「都市イデアの生成と変容に関する空間論的研究」)、平成21年度科学研究費補助金基盤研究A(「都市インフラストラクチャーの史的比較研究」)の助成に依っていることを付記する。

主な活動

  • 2007年04月 越南研究会発足、以後月例の定例会開催
  • 2007年08月 第1回現地調査(街区と住居の実測、聞き取りを中心に)
  • 2007年12月 第2回現地調査
  • 2008年08月 第3回現地調査
  • 2008年12月 第4回現地調査(港町ホイアンの視察も含む)
  • 2009年04月 国際シンポジウム「東アジア建築文化国際会議」(台湾・台南市)にて発表
  • 2009年08月 第5回現地調査(都城の周辺集落の本格的な調査に着手)
  • 2010年08月 第6回現地調査を予定

これまでに発表された成果および関連業績

  • 伊藤毅「海外都市事情 ヴェトナム編 フエ-都城のイデア」(財)経済調査会『月刊 積算資料』2007年8月号 pp. 22-27
  • 長谷川美希『ヴェトナム・フエの都市建築史的研究』(2007年度東京大学大学院工学系研究科修士論文)
  • 伊藤毅、大田省一、ウソンフン、初田香成、李佶勲、京谷友也、日塔友理子、増崎陽介、濱野友徳 “City and Arhitecture in Hue 1-9”, International Conference on East Asian Architectural Culture(東アジア建築文化国際会議), Tainan 2009
  • 日塔友理子『フエの都市化過程における住宅の変遷』(2008年度東京大学大学院工学系研究科修士論文)
  • Tran Dai Nghia『洪水期に発現する集落の空間構造とコミュニティの特質–ベトナム中部のフクティク村を事例に–』(2009年度東京大学大学院工学系研究科修士論文)

参加メンバー

所属は参加時点、特記なき場合は東京大学・伊藤研究室。

  • 伊藤毅
  • 大田省一(京都工芸繊維大学)
  • Tran Dai Nghia(東京大学大学院社会基盤学専攻景観研究室)
  • 初田香成
  • 増崎陽介
  • 王勁
  • 繳艶華
  • 河辺賢
  • Phung Thi My Hanh
  • 禹成勳
  • 李佶勲
  • 長谷川美希
  • 京谷友也
  • 日塔友理子
  • 濱野友徳
  • 奥原徹