フリースラント

オランダ沼地研究会はオランダ11州のひとつ、北部に位置するフリースラント州を研究対象とする。オランダ内で唯一、オランダ語以外にフリジア語を公用語とし、住民も他から区別して少数民族フリース人と呼ばれるなど、文化的に他の州と異なる点が多いことが特色である。フリースラント州には、古来から先進的であったオランダの利水技術の起源とされる人工微高地:テルプ(terp、複数形はterpen)上に築かれた集落が数多く現存する。当研究会ではこのうち「11都市」(elf steden)と呼ばれる都市群を調査対象とし、2009年度から継続的に各都市の現地調査を実施している。11都市とはレーワルデン(Leeuwarden)、スネーク(Sneek)、エイルスト(IJlst)、スローテン(Sloten)、フラネケル(Franeker)、ハーリンヘン(Harlingen)、ボルスワルド(Bolsward)、スタフォーレン(Stavoren)、ヒンデローペン(Hindeloopen)、ドックム(Dokkum)、ウォルクム(Workum)である。

11の都市は中世に都市特権を獲得し、政治や商業などの面でフリースラントの歴史的な基盤となってきたが、その実像は非常に多様であり、規模、地勢、都市中心部、言語などにそれぞれの強い個性が認められる。一方、それぞれの住民は相互の文化的・歴史的な連繫を非常に強く意識している。こうした一見すると共通点の少ない都市が、緊密なまとまりをもつ都市群として認識されていることは極めて興味深く、これらの11都市は役割分担を通じて全体がひとつの都市のように機能するという意味で「一群の都市」であり、その結びつきを担保するのが都市インフラ、すなわち都市を結ぶ運河やそれを中心に育まれてきた文化であるとの仮説を我々は立てている。

これまでフリースラント州政府・各市政、現地研究者から協力を受け、現地での実測調査・史料調査や国際ラウンドテーブルなどを継続的に実施してきた。最終的な研究成果として国際シンポジウムの開催(2012/12)や書籍の刊行(2015年度中)を予定している。

主な活動

  • 2009年2月6日 沼地研究会発足、以後、定例研究発表会を実施
  • 2009年2月24日–3月5日 第1回 現地調査(予備調査としてオランダ国内22都市を訪問)
  • 2009年9月23日–9月29日 第2回 現地調査(予備調査としてフリースラント11都市を訪問)
  • 2009年10月29日–11月11日 第3回 現地調査(Sloten・Franeker・Harlingenの3都市において住宅・都市の実測調査を実施)
  • 2010年9月28日–10月11日 第4回 現地調査(Sloten・IJlst・Hindeloopenの3都市において住宅・都市の実測調査を実施)
  • 2011年9月4日-9月17日 第5回 現地調査(Dokkum・Bolswardの2都市において住宅・都市の実測調査を実施)
  • 2012年9月17日-10月1日 第6回 現地調査(Leeuwarden・Sneekの2都市において住宅・都市調査、Leeuwarden・Bolswardにて史料調査を実施)
  • 2013年9月15日-9月23日 第7回 現地調査(Harlingenにおいて住宅・都市の実測調査を実施、各アーカイブにて史料調査を実施、既調査都市を再訪)

成果

報告書

現地報告

  • “A Brief Presentation of the Results of the Architectural Investigation by the Research Team of the University of Tokyo in 2009”, Museum Stedhûs Sleat, Sloten, 07/10/2010
  • “Midterm Report of Urban and Architectural Investigation in Friesland”, Provinciehuis Friesland, Leeuwarden, 05/09/2011
  • “Territory and Urban Settlement along Water: Comparative Studies on Friesland and Other Areas in History” (日蘭ラウンドテーブル), Orange Hall Stadhuis Leeuwarden, Leeuwarden, 18/09/2012

論文

  • 髙橋元貴「一六〜一九世紀前期におけるフリースラント小都市の社会と空間―ボルスワルトにおける家屋・土地所有をとおして」『年報都市史研究21 沼地と都市』山川出版社、2014年、pp.37-54。
  • 宮脇哲司「オランダ・フリースラント、低地地域における都市形成」『年報都市史研究21 沼地と都市』山川出版社、2014年、pp.55-68。
  • Miki SUGIURA, Genki TAKAHASHI, “Maintaining Polycentric Small Cites under De-urbanization. Local Merchants’ Real Estate Strategy in Bolsward, Friesland.”, Real Estate and Social Topography in Pre-modern Europe (1100-1800), European Social Science History Conference 2014, Venna, 23-26 April 2014.

参加メンバー

所属は参加時点、特記なき場合は東京大学・伊藤研究室。

  • 伊藤毅
  • 杉浦未樹(法政大学)
  • 中島智章(工学院大学)
  • 勝田俊輔(東京大学大学院 人文社会系研究科)
  • 川添善行(東京大学大学院 生産技術研究所)
  • 金銀眞(東京大学 東洋文化研究所)
  • 初田香成
  • 松田法子
  • 赤松加寿江
  • 髙橋元貴
  • 宮脇哲司
  • 小島見和
  • 福村任生
  • 向山裕二
  • 中尾俊介
  • 松本純一
  • 鄭一止
  • 李佶勲
  • 江本弘
  • 兒玉大
  • 奥原徹
  • 李美奈
  • 井上真吾
  • 西村祐人(東京大学大学院 景観研究室)
  • 西村亮彦(東京大学大学院 景観研究室)