ラングドック

本研究会は、南仏ラングドック地方の山岳から海浜まで連続的な広がりの中に位置する都市・都市間領域・後背地を対象として、それらを形成してきた自然的・歴史的条件について、また各種インフラなど人間がつくりあげてきた環境制御機構とその歴史を調査、研究している。キーとなる対象は、17世紀後半にガロンヌ川と地中海をつなげるという目的でトゥールーズ―セート間に建設されたミディ運河(Le Canal du Midi、図1.ピンク色の線)である。

ラングドックは地中海沿岸に位置し、西はガロンヌ川流域のトゥールーズから東は地中海沿岸のナルボンヌやベジエ、モンペリエに至る。南にピレネー山脈、北に中央山塊の一部であるセヴェンヌ山地が広がり、山脈間の平野にカルカッソンヌなどの都市が位置する。主要な自然河川は大西洋へ流れるガロンヌ川と地中海へ流れるオード川があるがその間に航行できる河川がなく、運河建設は16世紀前半から構想されていた。ミディ運河には、地形・気候・地質条件や多様な権力が並立する中に通された巨大インフラとしての側面がある一方、実現にはローマ時代の遺構や中世以来の水利技術が利用されていること、微かな分水嶺を読み取った給水システムの精妙さなどが在地技術の表れとして指摘されている(Chandra MUKERJI, Impossible Engineering : Technology and Territoriality on the Canal du Midi, Princeton and Oxford : Princeton Univ. Press, 2009)。

ミディ運河が貫通した地域には先史時代から高所に人の居住があったところが多く、ローマ時代、中世、近世と都市の成立時期や与件は多様である。運河建設前後の都市・都市間領域・後背地の変化を現状と史料から把握することを当面の目標としている。運河が通る低ラングドック地方には内陸部潟湖が多く存在し、中世に都市エリートの投機としてそれらの干拓事業がさかんであったことも我々の関心対象である。また、ミディ運河はラングドック内陸部とさらに東部のローヌ川流域をつなげるサーキュレーションとして機能したことから、ローヌ河口地帯のカマルグの湿地帯・干拓地帯まで対象範囲に含め、広域的視点に立って調査を進める予定である。

2012年春の予備調査では、都市間を含む広域のスケール、個別都市スケール、建築スケールなど様々なスケールで連続的・広域的に巡見を行った。2014年から調査対象地を絞り、カペスタン(Capestang)、クリュジー(Cruzy)、ナルボンヌ(Narbonne)の3都市について、より精緻な現地調査を実施していく予定である。本研究会は、先行するオランダ・フリースラント州11都市と都市間領域の研究から2010年に派生したが、一方でバスティード研究(本研究会の対象範囲にもバスティードが分布している)からの継続的研究の性格ももっており、西洋史の専門家と協力しながら、水利技術史、湿地干拓の歴史、運河建設や干拓の背景にある徴税人や塩税などについて幅広く文献研究を行っている。

主な活動

  • 2010年09月 研究会発足
  • 2012年03月 第1回現地調査
  • 2013年03月 第2回現地調査
  • 2013年11月 カペスタン予備調査
  • 2014年03月 カペスタン第1回現地調査
  • 2015年01月 クリュジー予備調査
  • 2015年03月 カペスタン第2回現地調査/クリュジー第1回現地調査/ナルボンヌ予備調査

参加メンバー

所属は参加時点、特記なき場合は東京大学・伊藤研究室。

  • 伊藤毅
  • 加藤玄(日本女子大学)
  • 坂野正則(武蔵大学)
  • 中島智章(工学院大学)
  • 向井伸哉(トゥールーズ大学)
  • 勝田俊輔(東京大学大学院 人文社会系研究科)
  • 加藤耕一(東京大学大学院 工学系研究科)
  • 北河大次郎(文化庁)
  • 松田法子
  • 赤松加寿江
  • 東辻賢治郎
  • 高橋元貴
  • 小島見和
  • 光永理人
  • 松本純一
  • 中尾俊介
  • 河合美緒(東京大学大学院 工学系研究科 前研究室)
  • 長野壮一(東京大学大学院 人文社会系研究科 西洋史学研究室)
  • 下坂裕美
  • 寺田慎平
  • 内海理美
  • 畑中昌子
  • 清水領(フランス社会科学高等研究院)
  • 加藤政夫(学習院高等科)
  • 空由佳子(東京大学大学院 人文社会系研究科)
  • 中村巴瑠奈
  • 橋本剛志
  • 池田知穂
  • 海老原利加
  • 岩田会津
  • 杉山結子