ハバナ

キューバ共和国はカリブ海の大アンティル諸島最大の島、キューバ島を中心とする島国である。海を隔てて北にアメリカ合衆国、南に中南米諸国、東にヨーロッパと対峙するその立地ゆえに、キューバの歴史は多様な文化の影響のもとに刻まれてきた。先住民インディオは早期に姿を消してしまうが、最初の植民者であるスペインの文化、奴隷貿易によってもたらされたアフリカの文化、20世紀前半のアメリカの支配、革命後の社会主義イデオロギー、そして近年の観光化にともなう文化的消費の影響など、この島には質を異にする原理が次々と流れ込んできたのである。本調査では、このような重層的社会における都市、なかでも最もその荒波にあらわれてきた首都ハバナ市の都市空間のあり方を、文化の複数性という現代的課題を睨みつつ問い直し、かつそれを抽象的な概念操作によってではなく、個々の具体的な事実の断片を組み上げることで考察しようとしたものである。

具体的な活動としてはまず2000年4月にキューバ研究会を立ち上げて関連文献の講読や研究発表を行い、これらの準備をもとに同年8月に現地調査を実施した。現地では、重要と思われる都市建築の実測を行うとともに、居住者に聞き取りを行ってその生活の具体的実態に迫り、あわせて写真撮影や文献・史料の蒐集も行った。このときの成果については報告書『ハバナの都市・建築・社会』においてまとめられている。またこれにさいしては平成12年度文部省学術フロンティア推進研究(東北福祉大学と共同)の助成をうけ、現地ではハバナ歴史事務所(Oficina del Historiador de la Ciudad de la Habana)をはじめ関係者より多くの支援をいただいたことを記して感謝したい。

なおその後の活動は2001年の同時多発テロの影響で第2回現地調査が実施直前で中止となるなど、社会情勢の変化にともない中断を余儀なくされていたが、再度の調査にむけて2009年末に研究会を再開したところである。

主な活動

  • 2000年4月10日 キューバ研究会発足、以後勉強会、報告会を開催し調査の準備を進める
  • 2000年8月15–27日 第1回ハバナ市現地調査
  • 2001年3月 報告書『ハバナの都市・建築・社会』作成
  • 2001年9月 第2回ハバナ市現地調査予定(アメリカ同時多発テロにより中止)
  • 2009年12月12日 研究会再開

成果

報告書

  • 『ハバナの都市・建築・社会』(東京大学大学院工学系研究科建築学専攻伊藤研究室、2001年)

参加メンバーによる関連業績

  • 伊藤毅「ハバナにおける建築修復の現在(上/下)」(『UP』第347–348号、東京大学出版会、2001年)
  • 宇野悠里『ハバナの位相—ハバナビエハの変容にみる植民都市の重層性—』(東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修士論文、2001年)
  • 宇野悠里・伊藤毅・尹世遠・石渡慎一・岩本馨「ハバナビエハの住空間の変容にみる植民都市の重層性—ハバナ建築史研究(1)—」(『日本建築学会学術講演梗概集(関東)』、2001年)
  • 伊藤毅・尹世遠・石渡慎一・宇野悠里・岩本馨「ハバナの都市史:キューバ革命まで—ハバナ都市史研究(1)—」(『日本建築学会学術講演梗概集(関東)』、2001年)
  • 岩本馨・伊藤毅・尹世遠・石渡慎一・宇野悠里「ハバナビエハ(旧市街)の形成過程—ハバナ都市史研究(2)—」(『日本建築学会学術講演梗概集(関東)』、2001年)
  • 石渡慎一・伊藤毅・尹世遠・宇野悠里・岩本馨「ハバナのアメリカ化と近代建築—ハバナ都市史研究(3)—」(『日本建築学会学術講演梗概集(関東)』、2001年)
  • 尹世遠・伊藤毅・石渡慎一・宇野悠里・岩本馨「ハバナの医療環境についての調査報告—ハバナ医療史研究(1)—」(『日本建築学会学術講演梗概集(関東)』、2001年)
  • 伊藤毅「複数文化圏の民衆世界—ハバナの都市空間と民衆—」(『年報都市史研究』9、2001年、pp. 63-70)
  • 石渡慎一『ハバナの郊外化にみる植民都市の近代化について コロニアルシティからリトルハバナまで』(東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修士論文、2002年)

参加メンバー

所属は参加時点、特記なき場合は東京大学・伊藤研究室。

  • 伊藤毅
  • ガルシア モンティエル、エミリオ(Emilio García Montiel)(ハバナ大学)
  • 尹世遠(東京大学大学院 長澤研究室)
  • 小菅瑠香(東京大学大学院 長澤研究室)
  • 滝口西夏(スペイン語翻訳家)
  • 石渡慎一
  • 宇野悠里
  • 岩本馨