柴又

柴又研究会・柴又地域文化的景観調査

東京都葛飾区より柴又地域の文化的景観調査の委託を受けたことをきっかけに進行しているプロジェクトである。同区文化的景観調査委員会のメンバーらと組織した柴又研究会を中心に、2012年度から3年間の予定で活動を行っている。

柴又地域では、帝釈天題経寺を核とし、参道の往来や江戸川べりの豊かな自然などと呼応しながら、この地域ならではの景観が形成されてきた。これらは伝統的な情緒や雰囲気を継承する界隈として、近年、農村景観のみならず都市景観をも対象としつつある文化的景観の重要な参照事例となっている(例えば、採掘・製造、流通・往来及び居住に関連する文化的景観の保護に関する調査研究会(2010)『都市の文化と景観』にも重要地域として選定されている)。

対象地は下総台地と東京台地に挟まれた東京低地と呼ばれる一角にある。かつて縄文海進期には海面下に没し、古くから荒川・利根川両水系の流路変更や氾濫を経験してきた地域である。その景観は自然条件との密接な関係において育まれてきたため(参道や付近の柴又八幡神社古墳などは微高地上に存在する)、ボーリング調査や地形調査などからかつての自然地形を復元しつつ、特に微高地上で営まれてきた開発、居住の特徴を明らかにすることが肝要である。

柴又地域は南北方向に流れる二つの河川(江戸川と中川)と、東西方向に伸びる二つの街道(水戸佐倉道と古代東海道)により区切られた領域に位置する。二つの街道から斜めに伸びる古道が交差する場所に柴又帝釈天は立地し、その裏手では矢切の渡しによって古くから下総国と結ばれていた。柴又帝釈天は単に寺院というにとどまらず、陸上交通や水上交通の結節点であり、この地域は流通・往来の拠点、そして近世期以降の行楽地として捉えられるべきである。

我々は大きく二つの建築群に着目している。一つは帝釈天題経寺とその参道に並ぶ商家群であり、もう一つは江戸川に沿って戦前から存在する農家群である。緩やかに湾曲する参道沿いの商家は大正期以前の建物も多く、短冊状地割といった特徴をとどめながら、一部の建物を入れ替えつつも多くの観光客を集めている。一方、江戸川沿いの農家は、かつて多数の水屋(微高地に建設された水害時の避難場所となる建物)が存在するなど、河川との関係を反映した特徴が想定される。また、帝釈天題経寺は幕末以後造営されてきた諸堂に加え、特徴的な装飾・彫刻、さらに湧水をもとにした庭園を有する。このような建築群の特徴を把握しつつ、それらを活用した保全の方策を考えることも課題となろう。

以上を通じ、未だ先行研究の少ない東京の郊外に関する都市史的観点による調査研究として、柴又地域の江戸東京の東郊としての特質を明らかにすることもまた最終的な目標である。

主な活動

  • 2012年7月 第1回現地調査(門前町の景観および建築概要調査、周辺農村地区、旧水路などの概要把握調査)
  • 2012年11月26日準備会、12月13日柴又研究会発足、以後定期的に研究報告会を実施
  • 2013年2月 第2回現地調査(住宅実測調査)
  • 2013年3月 第3回現地調査(住宅実測調査)
  • 2013年7月 第4回現地調査(住宅実測調査)
  • 2013年12月 第5・6回現地調査(住宅実測調査)
  • 2014年3月 第7回現地調査(景観要素調査)
  • 2014年5月 第8回現地調査(住宅実測調査)
  • 2015年3月 『葛飾・柴又地域文化的景観調査報告書』 刊行

参加メンバー

所属は参加時点、特記なき場合は東京大学・伊藤研究室。

  • 伊藤毅
  • 大久保純一(国立歴史民俗博物館)
  • 小原丈明(法政大学)
  • 清水重敦(京都工芸繊維大学)
  • 森朋久(明治大学)
  • 鈴木地平(文化庁)
  • 谷口榮(葛飾区郷土と天文の博物館)
  • 福井恒明(法政大学)
  • 栢木まどか(東京大学)
  • 初田香成
  • 赤松加寿江
  • 山田智稔
  • 江下以知子
  • 井上真吾
  • 中尾俊介
  • 松本純一
  • 高松めい
  • 中村巴瑠奈
  • 下坂裕美
  • 黄天祥
  • 簡佑丞