ヴェネト

イタリア半島は中央に背骨のごとくアペニン山脈が走り、西はティレニア海、東はアドリア海に囲まれるという際立った地理的特徴を有している。古代よりこの半島の類い稀な地理環境を背景として、個性的な都市文明・建築文化が連綿と築かれてきた。一般に我々が想起するイタリアのイメージは、山や海と強く結びついているといえるだろう。だが、果たして山岳性や海洋性といった特徴のみでイタリア全土を語り尽くすことはできるだろうか。

本研究会の着眼点は、これまでのイタリア研究で見過ごされがちだった山と海の中間領域—丘陵、平原、沼沢地、潟—にある。北イタリアには、国境をなすアルプス山脈と内地を縦断するアペニン山脈にはさまれた広大な平野地帯、パダナ平原が存在する。この平原の中央には、周囲を取り囲む山々から水を一手に集めるポー川が横たわり、平原を南北に分断している。また、ポー川に注ぎ込む中小河川が自然の境界をなし、平野をより細かく分節している。このようにして分節された広大な領域に、ミラノやトリノという大都市、ボローニャやヴェローナといった中規模都市、更にはより小規模ながら独自の領域をもつ幾つもの自治都市がひしめき合っており、地域全体に複合的・重層的な様相が生み出されているといえるだろう。

オランダ・フリースラント研究会においては低地における水の管理・制御・利用と都市居住の問題が考察され、その中でも最も主要なインフラである運河が注目された。本研究会はこのフリースラント研究から派生したもので、当初はポー川流域のナヴィゲーション・システム(舟運網)への関心から研究はスタートした。

2010年度秋より研究会が始まり、水利技術史や農地開発史のレヴューや各都市の情報収集が着手された。2011年度からは前年度に得られた知見をベースに、実地調査の候補地をポー川流域から連続するイタリア北東部のヴェネト地方に定めた。この年度において、二度の巡見調査を行い、第一回調査において平野部で運河網の発達するパドヴァ県域、第二回調査ではアルプス前衛の丘陵からなだらかに標高を下げるトレヴィゾ県域をそれぞれ中心に見学した。この現地巡見から、当初のナヴィゲーション・システムへの関心を修正かつ拡大し、プレ・アルプス山地、緩斜地、平野、低湿地、潟と断面的に連続する地理空間全体(テリトリオ)をどのように把握し、またその中で都市がどのような役割を果たすのか、といった事柄が興味の中心となっている。

主な活動

  • 2010年10月研究会発足
  • 2011年10月第1回現地調査
  • 2012年01月第2回現地調査
  • 2012年11月第3回現地調査
  • 2013年02月第4回現地調査
  • 2013年09月アゾロ第1回実測調査
  • 2014年09月アゾロ第2回実測調査
  • 2015年09月アゾロ第3回実測調査

参加メンバー

所属は参加時点、特記なき場合は東京大学・伊藤研究室。

  • 伊藤毅
  • 陣内秀信(法政大学・法政大学エコ地域デザイン研究所)
  • 渡辺真弓(東京造形大学)
  • 野口昌夫(東京芸術大学)
  • 稲益祐太(法政大学)
  • 樋渡彩(法政大学)
  • 青木香代子(東京芸術大学)
  • 會田涼子(東京芸術大学)
  • 青木大和(東京芸術大学)
  • マッテオ・ダリオ・パオルッチ(法政大学)
  • フェデリコ・スカローニ(東京大学・ローマ大学)
  • 藤崎衛(東京大学大学院 人文社会系研究科)
  • 松田法子
  • 赤松加寿江
  • 平田絵理奈
  • 福村任生
  • 江本弘
  • 向山裕二
  • 八賀俊一郎
  • ベビオ・アマロ
  • 松本純一
  • 中尾俊介
  • 高松めい
  • 中村巴瑠奈
  • 下坂裕美
  • 内海理美
  • 寺田慎平
  • 中村駿介
  • 池田知穂
  • 橋本剛志