伊藤スタジオ2011

「小規模場所論—東京の infr@rchitecture その3」

趣旨

  1. 都市はさまざまな場所の集積と複合の総体として成り立っている。このスタジオでは多種多様な場所のもつ性格や意味を読み解き、そこから抽き出されるテーマを設計につなげていく方法を探るために、都市の「小規模な場所(群)」に注目する。
  2. 小規模な場所とは、行政区界や巨地形などによって指示される不可視の広大な地域ではなく、都市の諸活動・居住の単位となる社会集団の存在に呼応する場所で、認識可能な程度の大きさ(小ささ)と具体的なイメージをもつ場所と定義する[1] 。そしてこの小さな場所こそが都市の基底的かつ分節的なインフラストラクチャーであると捉え直す。
  3. さまざまな小規模な場所を東京という巨大都市から抽出し、その歴史的変遷、微地形、地域の社会集団、空間組成のディテールなどを丁寧にスタディする。最終的に、個々の地区の拠り所となり、かけがえのない風景をともなってあらわれるような「インフラーキテクチャー(infr@rchitecture)[2] を提案・設計する。

  1. 「小規模場所(群)」について
    場所の選び方、規模の設定の仕方を歴史的な経緯や地形などを手がかりに、一からディスカッションし、スタジオ全体としてひとつの仮説的な「小規模場所論」の構築を目指す。たとえば地名に冠される「小」という語は、「小山」「小平」「小池」「小川」などのように地域の社会集団と身近な自然との応答関係を彷彿とさせる場所を示すものが多い。あるいは微地形におうじてもうけられる都市内の階段やスロープ、崖線、溝などは、小規模な場所の輪郭を切り取るさいのヒントとなる。
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  2. 「インフラーキテクチャー」について
    「都市インフラ論」の拡充・深化を目指すサーベイ型歴史スタジオの第3回目。前回は「空地」を単なるスキマではなく、広く都市のインフラと捉え直し、都市の基盤となる建築的デバイス(infr@rchitecture)の提案を試みた(伊藤スタジオ2010を参照)。前々回の第1回目は「水と記憶」というテーマで東京の水を再考した。
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指導担当

伊藤毅(教授)、渡邊大志(伊藤研D/早大石山研)、髙橋元貴(T.A.)、向山裕二(T.A.)

ゲスト・アドヴァイザー

小渕祐介(特任准教授)、加藤耕一(准教授)、初田香成(特任助教)、松田法子(学術支援職員)

スケジュール

Step 1 [リサーチ] 第1週 出題
第2–3週 フィールド調査成果発表
第4週 フィールド調査成果発表、現地見学会
第5週 「小規模場所論」中間報告
Step 2 [プロジェクト] 敷地選定、プロジェクト構想確認
第6週 中間講評
第7–9週 設計エスキス等
第10週 スタジオ内成果報告
第11週 提出・展示・第1次講評
第12週 第2次講評(選抜)

参考文献

  1. 小規模性について
    • 大陸スケール
      内村鑑三『地人論』(岩波文庫、1942年、2011年復刊)、ル・コルビュジェ『輝く都市』(SD選書、鹿島出版会、1968年)
    • 国家スケール
      村上陽一郎『文明の死/文化の再生』(岩波書店、2006年)、田中彰『小国主義-日本の近代を読みなおす』(岩波新書、2003年)
    • 都市スケール
      宇沢弘文・堀内行蔵編『最適都市を考える』(東京大学出版会。1992年)、E・F・シューマッハ『スモール・イズ・ビューティフル』(講談社学術文庫、1986年)
    • 地域・地区スケール
      原広司『集落への旅』(岩波新書、1987年)、『集落の教え100』(彰国社、1998年)、陣内秀信『東京の空間人類学』(ちくま学芸文庫、筑摩書房、1992年)、明治大学工学部建築学科神代研究室編「日本のコミュニティ その1 エスニシティとその結合」(『SD 別冊7』鹿島出版会、1975年11月)
  2. 場所の履歴と場所性
    鈴木博之『東京の地霊』(ちくま学芸文庫、筑摩書房、2009年)、中村雄二郎『場所(トポス)』(弘文堂、1989年)
  3. 社会集団について
    • 前近代における身分と職分
      吉田伸之『巨大城下町江戸の分節構造』(山川出版社、2001年)、『シリーズ身分的周縁と近世社会』(吉川弘文館)
    • 近代以降の社会集団と都市
      きだみのる『気違い部落周遊紀』(冨山房、1981年)、吉見俊哉『都市のドラマトゥルギー』(河出文庫、2008年)、難波功士『族の系譜学 ユース・サブカルチャーズの戦後史』(青弓社、2007年)、「居住地再開発のオルタナティブ」(『群居』群居刊行委員会27号、1991年8月)
    • 伊藤研究室関連
      伊藤研2001年度東京大学卒業論文「都市と階段」、伊藤研究室編『地域の空間と持続-東京白山・丸山福山町地区を素材として』(東京大学21世紀COE都市空間の持続再生学の創出・成果報告書、2008年)、吉田伸之、伊藤毅編 シリーズ伝統都市『イデア』『権力とヘゲモニー』『インフラ』『分節構造』(東京大学出版会、2010年)

共同スタディ:小規模場所論

参加学生による「小規模場所論」スタディは、以下の三つのフレーミングを基底に「小規模性」「小規模場所性」概念の考察へと展開する。

  • Group A. 場所と境界
  • Group B. 制度と所有
  • Group C. 内部の論理