沼地研究会

本研究会のいう「沼地」とはひろく水と陸地の中間的な領域を指し、研究会の主たる関心はこうした地理的・自然的条件と都市や集落を媒介として人類が結んできた関係の歴史にある。

沼地研究会では当初、都市のインフラストラクチャ―(都市インフラ)を手がかりとして都市史研究を行ってきた。すなわち、都市内外の種々の条件を制御・活用する技術、あるいは広義における環境との共存を図る手段として都市インフラを再解釈しつつ、現地調査や関係分野との研究交流を通じてその可能性を検証してきた。その後、主たるフィールドであったオランダ・フリースラントにおける11の都市の調査を通じて小規模都市を群として捉える視角を検討し、さらにイタリア、フランスをフィールドに加える過程で、イタリアを淵源とするテリトリオ territorio 研究の方法や概念を各フィールドで発展的に援用する可能性を模索するに至っている。

具体的には2009年度の研究会発足時から調査を継続しているオランダ北部のフリースラント州に加えて2011年度よりイタリアのヴェネト州、さらに南フランスのミディ運河周辺地域およびラングドック地方を対象に加え、各地域史の専門家および現地の学術組織と連携して文献講読や現地調査を継続的に実施するほか、節目ごとに現地側との研究交流会を行っている。さらに2013年にはアイルランドを対象とする研究に着手した。

各フィールドにおいて考察の手がかりは異なるものの、都市インフラに注意した都市の形成史、発展史、都市空間の歴史、都市間の関係史といった都市史の範疇に属する考察が研究の主調をなし、これには社会=空間構造論、伝統都市論、都市イデア論といった都市史における近年の成果が反映されている。さらに関心が都市間領域や後背地に向けられるようになるにつれ、研究交流や採り上げる文献は多様さを増している。また海外に限らず、国内をフィールドとする伊藤研究室のプロジェクトにおいても本研究会の関心は通底している。

本研究会の特徴は、都市史・建築史の研究室である伊藤研究室の特質を活かし、建築実測や測量などの現地調査による発見的知見を重視していることである。調査に際してはこれまで都市史・建築史から顧慮されることの稀であった既往の学問分野、すなわち地理・地質・農業・植生等の様々な知見を学びつつ、同時に GPS・GIS の活用など対象領域の規模や性格に即した手法の革新を模索している。

対象地別の各研究会

関係するイベント

  • 日伊ラウンドテーブル
    “Water: Risk and Climate and Human Settelements”, Japan-Italy Research Cooperation Meeting
    フィレンツェ、2012年2月27日(フィレンツェ大学との共催)
  • 日仏ラウンドテーブル
    “Comparative Studies on Territory, City and Architecture in History”, France-Japan Research Meeting
    トゥールーズ、2012年3月8日(トゥールーズ大学との共催)
  • 日蘭ラウンドテーブル
    “Territory and Urban Settlement along Water: Comparative Studies on Friesland and Other Areas in History”, International Round-table
    レーワルデン、2012年9月18日(フリースラント州政府との共催)
  • 国際シンポジウム
    “Space, Culture, and Regeneration of Cities in History: From the Viewpoint of International Comparison of Territory and Infrastructure”
    東京、2012年12月3・4日(詳細はこちらを参照)
  • 日仏ラウンドテーブル
    “Territory, Society, and Technology”, France-Japan Reserch Cooperation Meeting
    トゥールーズ、2012年3月8日(FRA.M.ESPAとの共催)
沼地研究会関連プロシーディングス

沼地研究会関連プロシーディングス

関係する科学研究費補助金等

  • 2009–2012年度科学研究費基盤研究A 「都市インフラストラクチャーの史的比較研究」
  • 東京大学GCOEプログラム「都市空間の持続再生学の展開」都市空間文化再生(S3)部会(「都市インフラ調査研究・ヨーロッパ」)
  • 2013–2017年度科学研究費基盤研究S「わが国における都市史学の確立と展開にむけての基盤的研究」